![]() 【8/26】宮原航氏作「ミルキーウェイ」を本文中に追加しました。
=== お久しぶりです。だいぶ更新が滞ってしまったようで… 書きたいネタがないなあ、と思って探し回っていたら、かなり時間がたってしまったのです。 遅くなってしまいましたが、全国大会でいろいろな方とお話ができてよかったです。 皆様、本当にありがとうございました。 さて、香の限定打、についてのまとめ記事を書こうと思います。 ※空港で急いで書いたら時間が来てしまった…。一時的に読めるようにアップしておきますが 図面や誤字脱字、改行のおかしいところはそのうち時期を見計らって修正します。すみません。 香の特質ですが、「成ったり駒を取ったりせずに王手をかけるとき、盤上にある駒を動かして王手を かけることのできない駒」であるところだと思います。 歩は突く、桂馬は跳ねる、などの感触がありますが、香ではそのような動きを伴った感触は詰将棋では(攻め方の手としては)あり得ない。扱いが難しく、だからこそ素敵な駒でもあると思うのです。 頭に焼き付いている作品から少しづつ、テーマと仕組みで大まかに分けて並べてみたつもりです。 もう知っているよ、という方も多いとは思いますが、仕組みを再確認してもらえると嬉しいです。 短編では距離感を出したいけれど、玉の移動する変化を盛り込めないので必然、何かの工夫が必要になってきます。 例えば下の作品。 ■小林敏樹氏作(詰将棋パラダイス1985.7)この詰2010より ![]() 39香、同馬、33飛、22玉、13飛成り、同玉、23角成まで7手詰。 他の駒で取られてはいけないために最遠打。 ■原田清美氏作(詰将棋パラダイス1999.5)この詰2010より ![]() 28香、31玉、32飛、同玉、33角成、同玉、34香まで7手詰。 19角の利きを遮断する目的。初手28香を取ると馬が質駒になって早く詰んでしまいます。 こちらは最遠打ではないですが、美しい。軸駒の角を捨て去る鮮やかな収束です。 もちろん、これらは香車でなく角や飛車での表現も可能です(この詰2010に他の作品が数多く引用されています)。 風みどり氏がこの詰将棋がすごい!で、香の遠打に対する中合対策、というものを書かれていて、短編において非常に重宝する論考。 これら二つの作品は、途中で合駒された時の機構は一緒です。すなわち、飛車で合駒を食べてしまえば香が後ろ盾になって、玉はたじたじという仕組み。 その他で遠打を表現しようとすると、最近では次のような作品が。 ■芹田修氏作(2012.12短コン) ![]() 19香、21玉、18馬、91龍、22歩、12玉、45馬まで7手詰。 香の遠打に関しては前例がいくつもある模様。ですが本作で注目したい点は、中合の変化処理。 2手目17桂合の変化は同香、21玉、45角成、91龍、13桂で詰む。歩合は二歩でできず、角は売り切れ。他の駒は前に利くので取って22に打って詰み。一枚でも多く持ち駒を入手すると詰む、という処理の方法。 超短編においてこれを取り入れすのは難しいですが、桂合の処理が非常にうまくできていると思いました。 ほかの短編で、守備駒を動かさないパターンはこちら。 ■きしはじめ氏作 (詰将棋パラダイス1987年6月) ![]() 39香、38銀合、34飛、46玉、47銀、同銀生、36飛、同銀生、45馬、同銀、47銀まで11手詰 持駒に金がないと余詰が出にくいように思います。そういえば、他の作品でも香の限定打を作るときには金ではなくて銀が多い。 こういう理論は感覚ではなくデータで示せないものなのでしょうか。ともあれ本作、簡潔な配置で見事に描き切っており、脱帽です。 ちなみに香遠打と38中合の意味づけは2手目26玉の変化中、38に玉を逃がさないようにという明快なもの。 ![]() ■小林敏樹氏作 (詰将棋パラダイス1995年6月) ![]() 56金、同玉、74角、66玉、55角、同玉、59香、66玉、58桂、55玉、54金、同玉、66桂まで13手詰 看寿賞。58桂を打たなければいけないという意味づけ。58香だと詰みません。 ![]() この作品ですごいところは、58合の変化では前に利く駒を取って詰む(桂馬は打てない!)のに、 57桂合の時は平凡に47桂以下詰んでしまうところ。 ![]() ■自作(詰将棋パラダイス2009年5月、半期賞) ![]() 39香、36角合、45飛、26玉、18桂、同角成、28香、同馬、46飛、同馬、18桂まで11手詰 こんなところに自作を載せていいのか…?香打、合駒、つなぎ、駒の翻弄というリズムはきしはじめ氏作と一緒。 さて、少し香の枚数を増やしてみると、翻弄ものができます。 【翻弄の香打】 ■三輪勝昭氏作 11手詰(詰将棋パラダイス2014年4月) ![]() 49香、同馬、48香、同馬、47香、同馬、36金、同馬、44龍、同玉、34馬 まで11手詰 2手目48歩合は47香として ![]() 36玉、46金、37玉、39香以下。 また、49香に47歩合なら36金以下、作意に短絡します。 ![]() 変化紛れが少なめで、きれいにできている作品だと思います。 伊達悠さんが9手詰で香3連打を作図していたような気がするのですが、ぱっと図面が出てきません。 どなたかご存知でしたら教えてください。 この作は割合にシンプルな割り切り方をしているが、同じ作者でも化け物のように違う作品も。 少し前の作品ですが、高橋農園「看寿賞に選ばれなかった傑作」コーナーに 載っていて心底感動しました。 ■三輪勝昭氏作 17手詰(詰将棋パラダイス1992年11月) ![]() 56香、同飛、55香、同飛、54香、同飛、63銀、41玉、53桂、同飛、52銀、同飛、53桂、同飛、63角成、同飛、51角成まで17手詰 初手57香は55歩合で不詰。56香と打っておけば64桂、53玉、54銀、64玉、42角成、74玉の時に76香と打てて詰む。 ![]() ちなみに55歩合は、取ると53歩合で、以下51角成、43玉、61馬、44玉の時に脱出しようという意図。 香が56にいれば35銀と打って詰みます。 ![]() 左右の変化紛れを駆使した初手限定。シンプルなのにどうしてこうもうまくまとまるのでしょうか。 56香を入れることによって逃げ道がふさがり、55香に対して53歩合の変化も詰むようになっています。 ![]() 収束も見慣れてはいるけれど、飛車の翻弄でテーマが一致していて完璧。 推敲しつくされた配置で、なぜ看寿賞を取れなかったのか不思議でなりません。 同じテーマでも、作者によって表現方法は異なります。格好の例が下図。 ■中村雅哉氏作 11手詰(半期賞受賞作) ![]() 39香、同龍、38香、同龍、36香、同龍、46桂、同龍、35角成、同龍、53飛成まで11手詰 初手の意味づけは2手目37歩合の変化。36香、45玉、35角成、56玉、63飛成と進むと、38が埋まっている必要があるというわけです。 ![]() 戻って、龍を39に呼んでおけば、38香に37歩合の変化は35角成!、同玉、33飛成以下詰み。 ![]() 6手目45玉の変化でも、38が埋まっていることが詰みの条件になります。 ![]() 変化が豪華で、同年の同氏作がなければ、看寿賞も狙えていたかもしれません。 【違う筋からの香打】 ■上田吉一氏作 17手詰(極光21 第54番) ![]() 38香、同と、55飛成、26玉、29香、同と、35龍、同玉、38香、37飛合、27桂、同角成、37香、同馬、15飛、同馬、36金まで17手詰。 大駒の中合の部分から作り始めた、と本文には書いてありますが、3香の限定打はなかなか作れるものではありません。 ちなみに初手39香は、同様に進んで29香の瞬間に37玉で逃れ。29香に対して28歩合は15龍以下、28がふさがっているので詰みます。 どの作品においても、合駒された瞬間にそれを利用して詰ませるか合駒をとって持ち駒の差で詰ませるかしないといけません。 これに触発されて真似しているうちにできたのが次の自作(また自作!) ■自作 ![]() 44馬、36玉、28桂、同と、48桂、同金、39香、同金、26馬、45玉、49香、同金、44馬、36玉、38香、同金、26馬、45玉、46歩、同桂、44馬、36玉、27龍、同玉、26馬まで25手詰 作品の解説はこちらを参照ください。 【違う段からの香打】 翻弄のほかに、一瞬の隙を狙った段を違えて打つ捨て駒としての香車も美しいです。 これは、合駒の変化処理と紛れ処理がもっときわどくなるパターン。作図はとても難しい。 ■山田修司氏作 33手詰(近代将棋 1969年11月/「夢の華」73番) ![]() 42飛、51玉、63桂、同金、59と、同と、53香、同金、41飛成、62玉、61龍、73玉、72龍、84玉、94角成、同玉、92龍、93金合、83銀、95玉、93龍、86玉、87銀、同玉、96龍、88玉、89金、同玉、98龍、79玉、89金、69玉、78龍まで33手詰 伏線で53をあけ、59へと金を動かし、また閉じる。 ※私が持っている、上田さんから拝借した「夢の華」の図面ページには、「74歩→74金」というメモ書きが施されています。これで余詰なしの模様。2014年8月号パラ、若島先生の寄稿より。 山田修司さんの作品は、意味づけが変化の中に隠れずに作意に出てくることが多いように思います。 本作も例にもれず、玉を9段目まで追いまわしていき、私などは途中がつなぎのような印象を受けました(失礼)。 しかし、「変化に隠すことが奥ゆかしい」という考え方が比較的新しいとしたら、素晴らしい作図技術でこの滑らかなつながりが実現できていることが分かります。 ちなみに、現代風に(つまり舞台を移さずに)同じ表現で作っているのがこちら。もう一回上田さん作です。 ■上田吉一氏作 (極光21 第75番) ![]() 53香、52飛合、同香成、同玉、56香、同馬、51飛、同玉、53香、52飛合、41飛、同玉、44香、42銀合、52香成、同玉、51飛、同銀、43香成、41玉、31歩成、同角、32とまで21手詰 飛車合の中に挟まった56香打がすごい。この作品、実は極光21の中で私が最も気に入っている作品の一つ。 同じ筋で異なる段の香打。二つが離れていれば離れているほど作図は難しく、例えば山田さん作であれば59香に対して53歩合や香合とする変化をかなりきわどいところで分けないといけない。 さて、中編では上のような作り方でまとめるほかに、何もない空間からの香打という表現も可能。 この手数では変化紛れの自由度が増えるので、より一層距離感を出すことができるようになります。 ■若島正氏作 21手詰(盤上のファンタジア第52番) ![]() 39香、35銀合、同香、22玉、33香成、14玉、24銀成、同玉、13角成、同玉、35馬、24飛合、15香、14桂合、22銀、12玉、14香、同飛、13馬、同飛、24桂まで21手詰 2手目に23玉では24銀成~35馬~17香で簡単。下図は35香の局面。 ![]() ここで35がかなめの升目になっているのですが、単純に35歩合では31角成、23玉、24銀成 ![]() 同玉、35馬、15玉、16歩、同玉、18香、 ![]() 27玉、17馬まで詰み。 また、38歩合、同香、35歩合には31桂成、23玉、24銀成、22玉(同玉は35馬から17香~33角成と引けるので詰み) ![]() 23香、12玉の瞬間に13歩と打てるので詰み(ここの局面で一歩の差を出している)。 以下の収束もきれいで、傑作としか言いようがありません。 同じ遠打の構造を使ったものが、次の傑作。 ■相馬康幸氏作(看寿賞受賞作) ![]() 39香、22玉、44馬、33銀、34桂、12玉、13香、同桂、24桂、同歩、22桂成、同銀、同馬、同玉、23香 、同玉、32銀、12玉、23銀打、11玉、21銀成、同玉、32香成、11玉、22成香まで25手 22桂成と24桂の手順前後の傷(本来なら余詰とみなされるのでしょうが)はありますが、こんなにきれいな図面から完璧な手順は捨てられない。 初手の香打に対して桂合は売り切れ。歩の中合は同香、22玉、33銀、同桂、同馬、21玉、22歩、11玉、13香、12歩合(桂は売り切れ)、同玉、13香、同玉、25桂、12玉、13香まで。歩一枚の差で割り切っています(この手順で、歩が一枚足りないと詰まない)。 また、作意手順中の13香に同玉とすると、25桂、24玉、35馬、15玉、16銀、同玉、18香、27玉、17馬まで。この2つの理論によって香遠打と中合の利かない構造が出来上がっています。 ![]() 【追記】最近の作品で素晴らしい出来のものをもう一つ書き忘れてました。 ■宮原航氏作(2014年4月号短大)「ミルキーウェイ」 ![]() 35銀、同玉、36歩、24玉、35歩、同玉、39香、38歩合、同香、同と、36歩、34玉、35香、24玉、46馬、15玉、14飛、同龍、16歩、24玉、33香成まで21手詰。 36香と打っても手の続く局面で、39香の遠打!これは、24玉と逃げられた時に ![]() 46馬、15玉、26銀、同玉、35馬、27玉、17馬として詰ませるためのもの。 ![]() 惜しむべくは18香の配置が収束まで不発で終わってしまうところと、 38香に対して同とでも、24玉でも逃れてしまうところでしょうか。 17馬の詰上がりは相馬氏作・若島氏作と一緒ですが、本作の場合はそれよりも 違う段からの香歩打の攻防が、こんなにきれいに成立している、ということに驚きを禁じ得ません。 上二つのテーマが見事につながっています。 評点は5作中3位ですが、この月の中では(個人的に)ダントツに好みです。 他の怪物のような変化紛れの例だと、2年前の看寿賞作が有名ですね。 ■真島隆志氏作(看寿賞受賞作) ![]() 69香、68歩合、同香、66桂合、同香、65桂合、同香、64銀合、同香、63銀合、同香成、同角、73香成 、同玉、82銀生、62玉、73銀打、53玉、56飛、44玉、33銀、35玉、24銀引生、25玉、37桂、24玉、42 馬、33銀合、25香、13玉、14歩、12玉、24桂、同銀、13歩成、同銀、23香成、同玉、53飛成、12玉、 13龍、同玉、25桂打、14玉、26桂、同と、15銀、23玉、33馬、12玉、13桂成、同玉、24銀、12玉、23 銀成、11玉、21歩成、同玉、22成銀まで59手詰 変化はあげるときりがないのですが、遠打のメカニズムとしては玉を下段に追った時に詰ませるためのもの。 初手69香に対して66歩合の変化を一例として挙げてみます。 72飛、53玉、42飛成、63玉、41馬、64玉、62龍、54玉、63馬、55玉、64馬、76玉、54馬以下。 ここで香が68にいれば77玉で逃れるというわけ。この局面において36馬と引く手があり、24桂はそれを防いでいると考えられますが… こんな難解な作品、私は作れる気がしません。真島さんはきっととても棋力と気力のある方なのでしょう。 ■ まとめ 香の限定打にもいろいろなまとめ方と目的があります。ある程度項目に分けて記述してみましたが、同じと分類されるものでも表現や見せたいものの浮かび上がらせ方によってずいぶんと異なる作品が出来上がる。 そして、作者の考えたことに思いをはせる。詰将棋の素敵なところだと思うのです。 ■ おわりに 8月号の若島先生の論考に山田修二さん作が出ていて、香について一回まとめたいと思ったのが今回の動機になりました。しかし、少しずつ書いていたらかなり時間が。しかも頭に残っている作品しかわからず、比較的よく知られている作品が多く並んでしまったことかと思います。 しかし、複数局並べてみると意外に共通のまとめ方があったりするもの。書いていていろいろと勉強になったり、頭の整理になったりということもしょっちゅうです。それにしても、今回作品を提示しようとして、本当に豪華なメンバーしか思い浮かびませんでした。他にも傑作があって、自分の頭から漏れているだけかもしれませんが… さて、今年度はかなり長い間離島に滞在し、ネットが使えない状態となりそうです。 その間ブログはお休みとなりますが、どうぞご理解いただけますよう。 ではでは。 ![]() |
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※あまりにも陳腐な名称なので漢字を少しかえてみました。懐石料理のようにじっくりと詰将棋を味わう意味も込めて。
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Author:shogisolving160
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